©2009 関 健一        索引に戻る

不忍池の周り
このあたりが岡田の散歩コースで物語でも重要な場所になっているし、お玉を囲っている末造の家のある場所でもある。

 

貳拾貳

 石原は黙って池の北の方を指差した。岡田も僕も灰色に濁った夕の空氣を透かして、指さす方角を見た。其頃は根津に通じる小溝から、今三人の立っている汀まで、一面に葦が茂ってゐた。

貳拾參

辧天の方へ向いて歩く二人の心には、兎に角雁の死が暗い影を印してゐて、話がきれぎれになり勝ちであった。

 今の不忍池には蓮が生い茂っている。弁天は新しい建物になって池の中の島にある、

 

貳拾參

 僕は岡田と一しょに花園町の端を横切って、東照宮の石段の方へ行った。(中略)石段の下を南へ、

 東照宮の石段も弁天も当時のように不忍池の散歩コーズにある。今も冬には不忍池にはたくさんの鳥がいるが、種々の鴨が多く雁を見つけた事は無い。

  

 

貳拾貳

 僕は左手に並んでゐる二階造の家を見て、「ここが櫻癡先生と末造君との第宅だ」と獨語のように云った。

 

 横山大観の旧邸が記念館になって昔の姿をとどめている。そのむかって左隣に明治の政治家、ジャーナリスト、劇作家であった福地桜痴の旧居があった。その左隣が、お玉を囲う高利貸し末三の邸宅に擬せられている。

 

    文学散歩index