私の読書 2001年のベスト7

 昨年読んだ本、新刊も旧刊も含めて気に入った物を7冊とりあげて一言ずつ書きます。順不同です

1 リンザー 波紋  岩波少年文庫
   5才の少女の10年ほどの成長の物語なのですが、敬虔で奔放、強情で優しい、主人公が魅力的。疎開で田舎の僧院で暮らす中で出会った野性の香りを持つ人々の、町の女子寮で出会った人達との葛藤、その内省的で情熱的な生き方は矛盾に満ちた人間そのものです。作者は第2次大戦下のドイツでこれを書き、ナチに死刑判決を受け敗戦で奇跡的に助かったという経歴。カルミナブラーナで有名なオルフの妻だったこともあるという主人公に負けないダイナミックさです
2 浅野素女 パリ20区の素顔
   おしゃれではない、庶民、そして移民のるつぼのようなパリを描いて興味深い
3 井伏鱒二 黒い雨
   今ごろ読んで恥ずかしいがやはり素晴らしい。日本人のいやなところがさらりと書いてあるのも一興
4 アミン マルルーフ アラブが見た十字軍
 

 高校の世界史の十字軍とはまるで違った世界。野蛮なフランク(だから恐れを知らない) 文明化して内紛のセルジュクトルコ支配下のパレスティナ そして騎士道精神の権化のような サッラディーン。 変なことを口走った現アメリカ大統領に読んで欲しい

5 トマス H クック 夜の記憶
   クックは普通の人間の弱さを書くのがうまい。当然話は暗くなる。だから私は大好きなミステリー作家なのだが、名作”夏草の記憶”に劣らないでき上がりだ。肌合いは全く違うが池波正太郎と人間理解が近い
6 フランク ディレーニー ケルトの神話伝説
   昔からサガとか ベオウルフ とか アイルランドの妖精の話とか好きだが、これはその中でも最高の一冊。神話というより伝説であり、北欧神話のような神はでてこない。騎士は美しく着飾り、名誉を重んじすぎ、自分の約束に束縛される。危機は円環敵に続き終わりがない。女は美しく貞操より愛に殉じ恥じるところがない。だから英雄時代の話になるのだろう。再話でだまされているかという疑念はあるが
7 加納隆至 森を語る男 東大出版会 (熱帯林の世界3)
   ボノボの調査で有名な著者が書いた、その調査の助手をしていたザイールの青年のライフストーリー。センセーショナルな事や大きな冒険は皆無で、淡々と書いていながら、大きく心惹かれる物語。狩猟採集生活とは具体的にどういうものかリアルに伝わってくる。狩の楽しさ、獲物の分け方、男気、旅での助け合い、自由な夫婦関係、いろいろな禁忌、全く日本と違うようで、少し前には形を変えてあったような気がしてきました。
2002
2001

 

©Seki Kenichi    index  BBSにメッセージを