私の読書 2007年のベスト10

第1位
シュティフター  晩夏

   退屈だと評判だったので好きな作家なのに読んでいなかったけれど文庫2巻が終わるのが残念と思うほどの面白さ。
 ドラマはほとんどなく、ドイツ南部の山間を旅する青年が雨宿りさせてもらおうと立ち寄った館の主人と親しくなり,そこで生涯の伴侶を見つけるというだけのストーリー。そこに恋愛小説特有な葛藤も邪魔も入らない。 葛藤と言えば結婚に際しての主人公の妹の悲しみが語られるぐらいだが、これは全き幸福というのはあり得ないと、このユートピア的小説の中で作者が語っている事なのだろう。

 ただ青年は旅をし、農業や林業に対する知識を深め、ある時は古い教会を修復し、ある時はチターを習い、冬山に登る。それぞれの細部が心を打つ。
 19世紀の小説ながらエコロジーや有機農法、文化遺産という考え方を先取りしているように思う。ミラン•クンデラの文学論「カーテン」に言及があるのを読み直してみたい

第2位 
ジャン・ド・ジョワンヴィル 聖王ルイ  13世紀のフランス王ルイ9世を彼が率いた第7回十字軍について彼の臣ジャン・ド・ジョワンヴィルが王の死後数十年後に描いた伝記だが決して王を美化したりしていない様に感じられる。
 王が母に頭が上がらずお后にも自由に会えないエピソードや,イスラム教徒に捕虜になり苦汁をなめる事等何でも描いてあるが、一貫した王に対する愛と尊敬で貫かれていて読んでいて気持ちがよい。ルイは決して原理主義者ではなく、キリスト教徒にもイスラム教徒にも同じ道徳律であたっている。
 また、十字軍に従軍する騎士への報酬の交渉等の話もリアルだ。戦国時代の日本でこんなことに言及している書物があるのだろうか
第3位
渡辺京二   逝きし世の面影

 幕末から明治にかけて日本を訪れ,あるいは住んだ外国人が描いた書物から日本のその時代を再現しようという書物。失われた調和した世界に対する哀惜の感情に満ちあふれている。
 かねがね私は江戸時代に対する評価は、革命政権たる明治政府の前政権に対する否定と、史的弁証法史観による封建制の否定の二重のバイアスで、不当にあるいは過剰におとしめられていると思っているので爽快な本であった。
 失われた日本の美しい風景,自由な性習慣など目を開かせられることも多い

第4位
椎名麟三  美しい女  
第5位
ジェイムス・エルロイ  わが母なる暗黒    
第6位
夏目鏡子  漱石の思いで    
第7位
ヴァレリー・ラルボー  幼なごころ    
第8位
ロベ・デ・ベガ オルメードの騎士    
第9位
ジャレド・ダイヤモンド 文明崩壊    
第10位
森安孝夫  シルクロードと唐帝国    
番外
ジュリアン・グラック  シルトの岸辺    

 

2002

©Seki Kenichi