私の読書 2003年のベスト10
昨年読んだ本、新刊も旧刊も含めて気に入った物を10冊とりあげて一言ずつ書きます。順不同です
1 | J・ダイヤモンド 銃・病原菌・鉄 |
なぜ、南北アメリカやオセアニア、アフリカが現代文明においてユーラシアから後れをとったかを、壮大に分析していてどきどきした。ユーラシア大陸の東西への広がりが栽培植物や家畜の移動拡散を容易にし、ひいては民族の移動を進めたこと。家畜に出来る大型動物の原種に恵まれていたこと。長い期間の家畜の飼育により、家畜由来のたくさんの病原菌の免疫を獲得したこと等々、断片的には指摘されていた色々な要素で大きな絵を描いて見せてくれた。本多勝一の”マゼランが来た”に書かれていた地理上の発見後の原住民の伝染病による絶滅の問題、エイズやSARS等の新しい流行病の動物起源説にも連想が向いた | |
2 | コレット シュリ シュリの最後 |
1954年に亡くなったフランスの女流作家のこの2編小説は1920、1926に発表された。都市に住む美青年の倦怠を書いて息詰まるような緊張感があり、全く古さを感じさせない現代的なテーマをあつかっていて素晴らしかった。 | |
3 | 山口瞳 居酒屋兆治 |
男は悲しいな、女性を理解することができない、ましてや救うことも出来ない。主人公はまさに高倉健のイメージ、映画を見てみたい | |
4 | H.P.ブラヴァツキー インド幻想紀行(原題 ヒンドゥスタンの石窟とジャングルから) |
ドイツ系のロシア貴族の娘でアメリカ国籍のブラヴァツキー夫人(1831-91)は神秘主義者といわれるが、イギリスの圧制下のインドを旅する彼女の目は、怪しげなオカルトや心霊現象に全くだまされない。植民地のイギリス人の傲慢さと醜さ、インド人の中にいる知的で精神的な自由を持つ人々を魅力的に描いている。その発言はあふれる真情と抑圧された物への深い共感からきているように思われる。白人支配の世界に対抗し全人類の友愛による社会の基礎を作ろうとしたのが彼女達の設立した神智学協会であった。彼女の理想主義はインドを舞台に美しい詩を描いている。 | |
5 | スーザン・ソンタグ 他者への苦痛のまなざし |
極めてまっとうな写真論、問題に正面から取り組み、ちゃかしたり知ったかぶりをしないので気持ちがよい。はっきり見ることがかっこわるいというような写真、曖昧さが今風なのだという写真が、今の日本では流行しているし、その尻馬に乗る批評家も目立つが、曖昧さに居直ったとたんそれは傲慢に転化してしまうだろう。まじめに見ることを評価するのは当然なのに。 | |
6 | アナトール・フランス シルヴェストル・ボナールの罪 |
皮肉屋なのに優しい心を持ち、どこか屈折しているのに爽やかという不思議な主人公、ボナールは老古文書学者なのだが、老成しているようで若々しい。こんな小説を37で書くと作家はどんどん若がえらなくてはならないのだろう。読後感すっきりの小説だった | |
7 | 島崎藤村 夜明け前 |
長く読みたいと思っていながら長大なので先延ばしにしていた。読み始めたら面白くて止められなかった。藤村が自分のことを書いた小説はどこか弁解がましくうんざりするところがあるが、父を書いたこれは、彼の悲しみがひしひしと伝わってきて、幕末明治という遠い時代を飛び越えて心に訴え変えかけるものがあった。激動の時代に誠実に生きるつらさに涙してしまう。 | |
8 | 小谷野敦 聖母のいない国で |
題はひどいが中身はおもしろかった。大体書評好きな私は、日曜の書評欄が新聞で一番の楽しみののだけれど、それで読んだ気になってしまうという問題も存在するのだが。この本は米文学の13の作品について各一章書かれているのだが、そのうち5冊は読んでいて、後2人の作家は他の作品を読んだことがあるのでまあいいほうか。サリンジャーをくさしてあるところが一番おもしろかったかな。今年はキャッチャーインザライがまた話題になったが、学生時代に読んだとき何でこれが若者のバイブルなのかがちっともわからなかったので、路上にはカリスマを感じた私だけれど。これを書くために赤毛のアンの章を少し読み返したが、やはり面白い。目配りが良く行き届いているけれど遠慮がないところが良いのかな。 | |
9 | 斉藤美奈子 趣味は読書 読者は踊る 紅一点論 |
ついでにさらに批評の本。いずれも読みやすくて面白い。なんと言っても切口が常に新鮮。最初に読んだ「妊娠小説」ほどの衝撃は受けないけれどいつも楽しく読める | |
10 | 大原富枝 婉という女 |
力作、息詰まる緊張感が各行各行にこもっていて読書の楽しみを存分に感じられた。作者の思いが主人公婉の思いときっとどこかで重なっているのだろう |
こう見ると古い本が多いですね。書庫をひっくり返しては読んでいるせいかもしれません
2002 |
©Seki
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