私の読書 2015年のベスト10

2016.3.1 更新

第1位

ゴットフリート・ケラー

「緑のハインリッヒ」

 ゼーバルトの「鄙の宿」にケラー論に刺激され読みはじめたら止められない素晴らしさだった。ドイツ教養小説で読んできた「ウィルヘルム・マイスター」「青い花」「晩夏」「魔の山」のなかで私の心に一番落ちるものだった。それらの中でも一番視点が低くリアルに社会が描かれているように思う。スイスの民主主義への信頼、宗教的な不寛容への怒り、ロマンティックな愛への渇望、画家になる夢の挫折、スイスの美しい自然への賛美、一人親の母を寂しらせた悔恨、田舎の人々のダイナミックさ等がモザイクのように散りばめられいる。輝きはケルアックの「路上」を連想させるような至福感に満ちているが、次の章では深い挫折感にであってしまう。真摯に生きようとしながら満たされじれない主人公がつらい。

第2位

上野朱

「蕨の家」

 自らも筑豊で炭坑労働者として働き、その後筑豊や沖縄の普通の人の生活を記録した作家、また自宅を「筑豊文庫」として開放し、同人誌「サークル村」で多くの書き手を育んだ上野栄信と妻をその息子が描いている。家によその人が常にいる「筑豊文庫」での多くの人々との交流、子供から見た両親の関係等が絶妙の距離感であらわされている。何事にも負けたくない父親、大勢の不意の客を貧乏な中で食べさせ飲ませ続ける母親、それを助ける周囲の人々、その時代の感情が浮かび上がってくるようだ。カメラマン岡本昭彦とのエピソードも興味深かった。

 

第3位

スベトラーナ・
アレクセーヴィッチ

「チェルノブイリの祈り 」

 薦めるてくれる本の大半が私に気に入ると感じる友人が貸してくれた本。チェルノブイリ原発事故関係者からの聞き書きであるこの作品は、あまりに美しく悲しかった。本の最初と最後におかれた原発事故で夫をなくした2人の妻の述懐は愛ゆえの苦しさで息が詰まりそう。党官僚の弁解もあれば、汚染されたミルクを出荷させられた農民の話もある。大声の告発の本ではなく、事実の怖さがあるだけ、ノーベル賞受賞を機会に多くの人に読まれる事はとても嬉しい事です。

第4位

マシャード・デ・アシズ

「ドン・カズムーロ」

 約350ページが148章に分かれテンポ良く語られるドン・カズムーロの回顧録の形を取った小説。皮肉で何もかも見通せそうな主人公はしかし、自分をコントロールしきれない。人間に対するクールな分析と熱情が同居していておかしく哀れな物語だった。
 同じ著者の「ブラス・クーバス死後の回想」もおもしろかった。

第5位

ジャレド・ダイアモンド

「昨日までの世界」

 著者がフィールドで調査したニューギニアの部族社会の具体的なエピソードが興味深かった、とにかく慎重に見た物を分析してリスク(隣接する部族や自然・気象)回避をするのである。和辻哲郎の直感的印象による「風土」分析がいかにいい加減な物かを思い起こしてしまった。
 伝統的社会での子どもの交通事故死に対する解決法が興味深い。事故の数日後に行われた被害者と加害者の同席による賠償と謝罪の癒しの儀式は、現代社会での刑事的民事的決着による当事者の疎外と大きく違っている。だからといって著者は伝統的社会では即するグループ間の力関係が大きく影響するという問題も指摘しているのだが。
 先行の論文や、自分の得たデータをもとに伝統的社会の様相を分析していて信頼できる。

第6位

青柳いずみこ

「ピアニストが見たピアニスト」

 6人のピアニスト リヒテル、ベネディッティ=ミケランジェリ、アルゲリッチ、サンソン・フランソワ、バルビゼ(著者の先生)、ハイドシェックのCDや演奏会では見せない顔をピアニストの著者が共感と驚きとで暖かく描いている。初めの4人しかその名を知らないが、中でもサンソン=フランソワが面白かった。ムラのある演奏で有名なのだそうだが、たの5人と違って演奏会前でも全く緊張しないらしい。この本を読んで音楽そのものが面白くなるわけでも、つまらなくなる訳でも理解が増す訳でもないが、人間の面白さをたっぷり感じることができた。

第7位

マット・リドレー

「赤の女王・性とヒトの進化」

 
第8位

ジュール・ヴァレス

「子ども」

 

 
第9位

須藤弘敏 矢島新

「かわいい仏像
 たのしい地獄絵」

 
第10位

工藤庸子

「砂漠論」

 

 
番外

三橋順子

「女装と日本人」

 

 

2002

©Seki Kenichi