私の読書 2017年のベスト10

2018.3.11 更新

     今年はこれが1位というほどの本に出会わず2位2冊を並べました。生物学、ノンフィクションの本を多く読んだ年でもありました。印象に残った本は例年より多くて番外に多くを並べることにしました。順位は評価ではありません。好みと自分の知らないことを教えてくれたかで決めました。  
第2位

上原 恵一郎

「幻視の座」

 芸談が昔から好きだった。晩年の隅田川の船頭役が今も強く印象に残っているワキの名人宝生閑師の芸談が多分に主観的で踏み込んで行くインタビューアーによって引き出されていておもしろかった。昔からのやり方でもおかしいと思えば変えていく姿勢が感動を生むのだと思った。

 シテの名人喜多六平太(見たことはありません)の芸談を読むと今と昔はこんなに違うんだということがわかる、昔のお能好きの大名のわがままや 弟子筋との関係が興味深かった。

 新内の岡本文弥はCDで聞いただけだが言葉が明瞭で聴きやすかった。芸談は新内が登場人物も聞く人も庶民の、貧しい人の芸だったことがよくわかる。

第2位

パスカル・キニャール

「さまよえる影たち」

 キニャールは面白い。今年も何冊も読みました。この作品は断章ともエッセイとも言えるようなものだが、ちょっとしたスケッチが東西の古典の引用と結びついたり、エピソードからエピソードへの連想が意表をついたり、意外な教訓が反転したりとドキドキし続けることができる。

 

第3位

スディール ヴェンカテッシュ

「社会学者がニューヨークの
地下経済に潜入してみた」


 NYの地下経済(売春と麻薬)を小企業的に取り仕切る2人と主な主人公に、インド系合衆国人の社会学者が実際にその現場で友人になりながらその実態を描いたノンフィクション。裏経済だろうと表社会と同じように使っている人の管理、お客の開拓、競争、経営者的な向上心など何も変わらないところがよく考えてみれば当然だがおもしろい。
 麻薬を取り仕切る青年は下の階級の出身、アッパータウンで麻薬を売るには彼らと同じマナーや生活習慣が必要なのでそこで壁に突き当たる。上層階級向けの売春を手配する彼女は同じく上層階級の出身、親が与える退屈な仕事はしたくない。人気の手持ちの女性は精神的に不安定でその心のケアに追われる。ここはJKビジネスを取り仕切る日本の店長たちの言うことと綺麗にかさなる。

第4位

フランス ドゥ・ヴァール

「利己的なサル、
他人を思いやるサル 」

 昨年から生物学、特に進化生物学の本を好んで読んでいます。人間とサルの社会的行動について、豊富な観察から利他的行動がサルに多く見られることを教えてくれました。短絡的な利己的遺伝子を強調すると見えなくなるものがたくさんあるようです。助け合いや共感は社会を維持し結果として集団に大きな利益をもたらすのですから。

 徳の起源も似た話題をあつかっていて面白い。利他的行動などない、それは結局は自分のためだと言う議論は「利他」について道徳的な評価を加えていて原理主義的である。全ての行動には利己と利他という両面の要素が要素があって分離できないのであるから。

第5位

サイ・モンゴメリー

「愛しのオクトパス」

 タコの知性に関する本です。4年ほどしか生きられない水ダコの知能の高さ、好奇心の高さ、人を見分けてなついてくるし、いたずらしたり、複雑な鍵を開けて逃げ出したりします。短い命なので友達になったタコとの別れのつらさもせつないものです。知らない世界を教えてくれました。

第6位

アンソニー・ボーデイン

「キッチン・コンフィデンシャル」

 食べ物ついての本は大好きです。これはNYのシェフが半生を振り返って書いていて、若い頃の思い込みからハチャメチャも自虐の一歩手前で止めて書いていて楽しいです。シェフとして働く時、中南米出身のコックたちの勤勉さや、機械の故障などに対する柔軟な有能さを書いたところが印象に残りました。ウェルダン好みの客に対する態度もなかなか怖いものがあります。

第7位

ジュアノット・マルトゥレイ

「ティラン・ロ・ブラン」

 典型的な小説をやっと上げます。ドン・キホーテが愛読していたという「ティラン・ロ・ブラン」は15世紀カタルーニャで書かれた騎士物語である。すでに騎士道が廃れ始めた時代に成立したというところはドン・キホーテと共通するがこれは全く近代的な小説ではない。姫君はあくまで美しく騎士はとにかく強いのだから。
 しかし、主人公と思い姫は相思相愛の関係だが2人とも堅物すぎてとにかく進行しない。彼女の寝室にまで入り込んでも思いが遂げられずに手引きした侍女に罵倒されるのだから。それに対し戦友や部下は恋愛に積極的で大胆、結ばれる恋もあれば、横恋慕や罠もあり忙しい。女性の元気さが印象に残る。
 主人公の騎士ティランはひたすら強いのだが、それでも怪我もすれば捕虜にもなり、やっと獲得した幸せな時間も短い。4冊読み終わると最後に寂しい印象が残るところはドン・キホーテと同じだった。

第8位

マイケル・ルイス

「世紀の空売り」

 マイケル・ルイスは硬い常識を疑い、孤立しても行動して成果をあげる人物を描いている。リーマンショックを予測して空売りで成功した人たちの道のりの困難が描かれていて常識を変えることは証拠があっても難しいと言うことがわかる。まさに尊敬に値する人たちだ。
 「マネー・ボール」はメジャーリーグ野球でそれを実践して成果を上げた人の物語。スアクトたちの無能が面白い。やはりたくさんの摩擦に出会う話だか。

第9位

土屋 健

「エディアカラ紀・カンブリア紀の生物」

 化石の写真と生物の復元イラストが美しい古生物の本、エディアカラ紀の生物を知りたくて買ったが、面白くて続く古生代の3冊も楽しんだ。
 TVなどの情報はエディアカラ紀の生物の特殊性を強調しているが、カンブリア紀の生物への連続性があるとする立場で説得力を感じた

 

第10位

ベネディクト・アンダーソン

「定本 想像の共同体」

 

番外

 

手嶋兼輔

「ギリシア文明とは何か」

 

番外

ダニエル ネトル、 スザンヌ ロメイン

「消えゆく言語たち」

 
番外

ロジーナ・ハリソン

「おだまり、ローズ」

 
番外

ジョルジュ・ベルナノス

「少女ムーシェット」

 

 

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