私の読書 2020年のベスト10

2021.9.23 更新

       
第1位

フランス・ドゥ・ヴァール
「動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか」

 これを読むとキリスト教社会では動物の知力や利他的行動など人間しか持っていないと従来信じられたものを認めるのに強いマイナスのバイアスがかかっていることがわかる。またいわゆる実験で動物の知力を否定するものには、その動物の習性を知らないまま実験を行って動物に強いストレスをかけてしまっているので正しい結果が出ないたくさんの例を示している。例えば人の赤ちゃんの知能を測るときにはお母さんに抱かれながら気持ちよくテストをさせているのに、動物に対しては慣れた飼育員から引き離し不安を与えるようなケージの放り込んでテストをしているといった具合である。動物の知能にとどまらず、科学的と思われることの細部を調べてゆくと、恣意的な偏見や不注意による間違いがたくさん含まれていることもわかって興味深かった。

 

第2位
マンゾーニ
「いいなづけ」

 イタリアの校長先生がコロナ休校中にこの1冊をぜひと進めていた本、800ページを超える本でしたが、容赦のない人間観察なのに、悪い人ダメな人にも暖かい眼差しがあって、それが両立している素晴らしい本でした。そのくせ読みやすくておもしろい。
 高校の世界史の教科書にイタリア語を成立させた本として載っていて、それ以来読みたいと思っていたのですが55年ぶりに果たしました。

 

 
第3位

ハン・ガン
「菜食主義者」


 繊細な女性の主人公の物語、儒教的な男女差別の強い韓国の女性の生きつらさがチリチリと伝わってくる。男の身勝手さ、醜さを何気なくリアルに描いていて面白い。

ハン・ガン
「菜食主義者」


ハン・ガンの短編集、こちらは救いと未来が少し見える。
第4位
ジャック・ロンドン
「ジャック・ロンドン自伝的物語」

 映画「ジャック・ロンドン」が素晴らしかったで原作を読みたくなった。作者の動物小説は子供の頃たくさん読んで好きだったが他のジャンルのものを読んだことがなかった。映画は時代、場所を変えてあったが階級の問題をよく捉えていたように思う。ただ映画ではあまり描かれていない労働の厳しさとその中での喜びがしっかり描き込んであり、労働者階級出身のものしか持てないだろうリアリティに満ちていてすばらしかった。教養小説的題材ながらケラーに似てカタルシスがない。 ジャック・ロンドン
「火を熾す」

 柴田元幸が選んだジャック・ロンドンの短編集。小説的な技術の巧みな作家(例えば三島由紀夫)ものを読むと読んでいるときは素晴らしくても読了後嘘くさく感じることがままあるが、彼に限ってはそこから遠く離れている。
第5位

福沢 諭吉
「福翁自伝」

 入院中、病院の書架で他に読むものがなく読みはじめたら素晴らしく面白い。権威におもねず自由に考えていて、古臭いところが皆無で全く居間に向いた本だと思った。若い人が守旧かするように思える現状と幕末の違いはなんなのだろうと考えてしまった。

第6位

シンクレア・ルイス
「本町通り」

 都会出身の主人公は求婚され田舎の医者と結婚する。移り住んだ田舎町では上流階級なのだが街を文化的にしようと悪戦苦闘するが空回りし続けるリアルでおかしく少し悲しい物語がたっぷりと語られる。いかにもの悪人も善人も出てこず、2021年の現代でも確実にいそうな人ばかりで101年前の小説とは思えない。例えば信仰に熱い堅物で教会でもリーダーシップをとる女性の息子は不良のリーダーなのだが、その母は彼は周りにそそのかされてちょっとだけ道を外していると信じきっているところなど日本のどこの学校でもありそうな状況だ。散々ひきまわされる主人公の夫がいつも彼女を愛していて受け止めようとするところがこの小説の暖かさを作っている。破綻に至らないありふれた挫折の物語なだけに逆に絶望感が強いとも言えるかもしれない。

第7位

後深草二条
「とはずがたり」
佐々木和歌子現代語訳

 

 

第8位

上間 陽子
「裸足で逃げる」

 

上間 陽子
「海をあげる」

 
第9位

ケストナー
「飛ぶ教室」


 
第10位


町田 康
「宿屋めぐり」

 

番外

 

岩佐美代子
「宮廷文学のひそかな楽しみ」

 

番外

飯山幸伸
「ソビエト航空戦」

 

 

2019 2018 2017 2016 2015
2002

©Seki Kenichi